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悲しげに眉を下げた小森は、私に向かって身を乗り出して訴える。 「結婚したって私はここに残りますから。 心の半分は北原さんに捧げたままですからね」 「そんな中途半端な求愛いらんわ。 遠慮なく婚約者に全てを捧げておくれ」 小森のことは雑にあしらっておくことにして、私は机の右隅に立ててある手帳に手を伸ばした。 年が変わっても手帳は新しいものじゃなくて、昨年から使い続けているものだ。 一昨年の忘年会帰りに小森と酔った勢いで買ってしまった【10年手帳】は、その名の通り10年先のスケジュールまで書くことができる。 「北原さん今年もその手帳使うんですか?」 「もちろん」 「私それ、持ち運びが不便なんで自宅で日記代わりに使うことにしました」 「ふーん。小森日記なんて付けてるんだ」 言葉を交わしながらも目は今月のスケジュールを追っている。 この手帳で2度目の1月のページにはすでに来月のプレゼンに向けての進行や打ち合わせの予定がビッシリと書き込まれていた。 「今年もその手帳は仕事の予定だけで真っ黒になるんですかね…」 「や、結構ちゃんと色分けして分かりやすく書いてるけど」 「もちろんそーゆー意味じゃなくて。 分かってんでしょ? 今年はプライベートな予定も書きましょうっていう話ですよ」 「……うるさいよ。自分がプライベート充実してるからって余計な心配しないでいいから。 私はいいの。今年も仕事一筋」 顔を上げて殊更胸を張った私に小森は大きなため息をついた。
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