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「北原さん…。仕事仕事も悪かないですけどね。
……その手帳使い終わる頃に後悔したって手遅れなんですよ?」
小森の忠告がぐさりと刺さる。
言いたいことは痛いほど分かる。分かるけど。
確かに今のような仕事中心の生活で年を重ねることに不安はある。
小森の言う通り将来後悔するだろうとも思う。
正直に白状すれば、仕事もしっかりやりながら女としての幸せも手にした小森がものすごーく羨ましい。
でも、今の私にこの手帳を使い終わる未来のことを考える余裕なんて全くなかった。
だって、これだけ仕事最優先でいても自分の思うポジションを得られていない私が他のことにも目を向けたらどうなる?
「ーーーーー二兎追うものは一兎をも得ず……」
「はいっ?!」
ボソッと溢れた呟きに目を見開いた小森に向かって首を振った私は
「何でもない! とにかく私はこのままでいーの!!」
強引に話を打ち切って再び手帳に目を落とした。
「おはよーござい……じゃなくて
明けましておめでとうございまーす」
やっと無駄話を終えた私たちが仕事に集中しだした頃、もう1人のチームメンバーが現れた。
「ございまーす、じゃないっつーの。
1番下っ端がドンジリ出社ってどういうことよ?
遅いよ、下島ぁ」
「えー?お姉様方が早すぎるんですって。
まだ、定時まで余裕ありますけど?」
新年のチーム編成で新しくこのチームにやってきた下島吉康(しもじま よしやす)は、私の苦情を心外だと言わんばかりに肩を竦めた。
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