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それからだよ。お前がおかしくなっちまったのは。
まあ、これは俺の推測だが、あの時のレギュラーはお前と柳瀬の二人を除けば全員が三年生。その心強い三年生ともう野球が出来ない。そんな絶望的な喪失感が原因なんだろうよ。
お前は、あの日の決勝前の数日を繰り返し始めた。決勝敗退の現実から逃げるように。意味が分からないか?
既に引退している三年生をいると言い張り、ことあるごとに『いよいよ明日が決勝だ』とか『絶対、決めるぞ。甲子園』とかそんな言葉をチームメイトにかけ始めた。
要するに過去に生き始めたんだ。そうやって心の平安を保とうとした。
お前の時は、一年前のあの決勝戦で止まっちまったんだよ。
そりゃ、びっくりする筈だよな。お前にとっては背番号十二で打撃が弱点の控え捕手が、自分の快速球をことごとく痛打するんだから。
みんな、この一年、志半ばで引退した先輩の思いを叶えようと、悲願を遂げようと必死に努力した。控え組は背番号が一桁になったし、柳瀬はライトからセンターに格上げになった。
ただ、一つだけ変わっていない番号がある。
頭の中がお花畑になっちまったお前の妄言を訂正せず、みんなが何でお前に話を合わせて付き合ってやったか分かるか?
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