プレイボール

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 時が止まったようだった。  その試合、俺は初回から快調に飛ばしていた。全国高校野球選手権大会、県予選。俺たちは決勝まで登りつめ、前回大会王者・二条学園との大一番を迎えていた。  点差は僅かに一点。ツーアウト、ランナー二塁。あと一人を抑えれば甲子園が決まる。そんな場面でマウンドに立てていることを誇りに思う。熾烈なレギュラー争いを制し、二年生ながら掴んだ栄光の背番号一は、俺に驚くほどの勇気と力を与えてくれた。  腕はよくしなり、ストレートが面白いようにコーナーに決まった。  グルリと後ろを見回す。陽炎が立つマウンドから見えるのは、心強いバックの三年生の面々である。ピッチャーは孤独なんかじゃないんだ。そう再確認をして俺は打者へと向き直る。得点圏にランナーを背負った場面では必ず行う俺のルーティーン。  汗がじわりと背中を這う。イニングごとにアンダーシャツは替えていたが、この夏の暑さの前ではそんな些細な抵抗は意味を為さない。  スタンドから声援が聞こえる。それはほとんどが土俵際まで追い込まれた相手側への応援で、俺たちの高校から駆け付けた人たちは固唾を飲んで状況を見守っている。追い込んでいるのは俺たちの方だというのに、守る側は最後のアウトを奪うまでどこか不安げだ。  大丈夫。心配するな。グラブの中でぶつぶつとそう繰り返す。
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