プレイボール

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 野球には巡り合せがある。持っている人間はその巡り合せをことごとく自分に手繰り寄せるものだ。一打同点、一発出れば逆転サヨナラ。そんな場面で打席に構えるは、二条学園の四番。鍛え抜かれた鋼の肉体からとんでもない打球を飛ばす右の強打者だ。  敬遠という選択肢もあったが、俺たちの答えはノー。強気強気の采配で勢いに乗って勝ち上がって来た俺たちに試合巧者なんて言葉は似合わない。ここで終わらせろ。監督から勝負のサイン。  となると、先輩キャッチャーのリードだってイケイケだ。初球はストレート。力勝負。俺は口角を上げてほくそ笑む。そうこなくちゃ。  慣れないセットポジション、大して速くないクイックモーションから打者の懐めがけて腕を振る。インコースに構えられたキャッチャーミットに糸を引くような白球が吸い込まれていく。完璧な一投だった。  打者も初球から反応する。腕をたたみ窮屈そうにバットを出す。金属バットと硬球が衝突する。球場全体に金属音が響いた。  まずいか。上手くバットの芯を食っていた。飛距離は出る筈だ。一抹の不安。  レフトへ打球は伸びていく。だが、大丈夫だ、あのコースは打ててもファールにしかならない筈。冷静に自分を鎮める。  俺はポール際を見つめた。米粒のように小さくなった白球はスタンド目がけてなおも伸びていく。  ファールだ! ホームランだ!  両軍の思惑を孕んだ声が飛び交う。打球の行方は……。
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