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◇
パチリと目が覚めた。
まただ。
俺は小鳥がさえずる朝ぼらけの、まだ薄暗い寮の部屋でむくりと体を起こした。決勝進出を決めてからこっち、いつもこの夢を見てそうして結果が分からぬまま目が覚める。
俺は夢の中で二条学園との大一番を勝手に始めているのだ。
一体なんだというのだろう。俺の抱える決勝戦への不安が具象化した結果なのだろうか。
ええい駄目だ駄目だ。俺はまだ冴えない頭をふるふると横に揺するとベッドから跳ね起き両の頬を叩く。
まだ決勝は始まってもいないのに、どうして最後の場面ばかり夢に見るのか。たるんでいる証拠だ。だいたい、試合を決めるのは空振り三振だって決まっているではないか。なぜいつもあの場面で目が覚めるんだ。
「おはよう、早いな」
俺が一人、悶々と自らと語らっているおり、眠気眼をこすりながら、ルームメイトの武田翔真が起き出してきた。奴は同級生の控え捕手だ。
ピッチャーの俺としてはチーム内でも投げやすい捕手の一人ではあるのだが、何故、控えに甘んじているのかというと簡単な話で、武田はバッティングに難がある。
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