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「武田、お前も来い。着替えるんだ」
「ええ! まだ五時前だぞ。もっと寝かせろよ……」
武田は言いながら布団を被ろうとする。
まったくこの男は。そんなだから控えなんだ。俺は呆れた様に溜息を一つ。
「先輩みてみろよ。もうとっくに起きて外に出てるぞ!」
我が野球部は県外からの推薦入部者も多く抱えている為、学校の敷地内に専用の学生寮がある。各部屋には三年生~一年生が無作為に六人ずつ割り振られ、生活を共にする。
部屋を見渡すと既に三年生の姿は見えない。きっと自主練習に出ているのだ。
先輩たちにとってはこれが最後の夏となる。甲子園まであと一勝なのだ。高校生活最後にして最大のチャンス。乾坤一擲の大一番。オーバーワークには注意しないといけないものの、体と心はいてもたってもいられないという様子で、こんなにも朝早くからうずいて仕方が無いのだろう。
「なに先輩が?」
目をしばたかせ、武田は驚いたように飛び上がった。
「おら、いくぞ。支度しろよな」
夢現の武田を蹴り上げると、俺は阿片窟の様相を呈している部屋を後にした。まだ夢の中にいるのであろう一年生数名が毛布の中でもぞもぞと蠢いていた。まったくだらしがない奴らである。
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