プレイボール

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◇  靄のかかる第二グラウンド。まだ誰もいないまっさらな土。吹き抜ける真夏の風が心地よい。俺はそのマウンド上で驚嘆の色を隠せなかった。  ピッチング練習がてら武田の打撃投手を買って出たのだが、さっきから武田が俺の速球をことごとく打ち返すのだ。もっとも試合ではないので、七割がたの力で全力投球ではない。それでも、以前であれば前に飛べば良い方といった体たらくだったのに、力強いスイングから放たれるライナー性の打球は、軽々と外野まで飛んで行く。 「もう一球いくぞ!」  そう声を掛ける。武田は左バッターボックスでこくりと頷きバットを構える。  試してみるか。俺は大きく振りかぶり、渾身の一投をど真ん中めがけ投げ込んだ。これをまともにバットに当てられるのは、部内ではレギュラー格の先輩だけだ。同学年の連中は、せいぜい差し込まれ気味にバットに当てるか、そもそも当たらずにボールの下を空振るかである。  武田は摺り足の要領でタイミングを合わせ、バットを始動させる。綺麗に腰と連動したスイングは白球の軌道の延長線で平行となり線と線でぶつかり合う。快音残した打球は、教科書通りのセンター返しで外野を転々と転がって行った。  やはり間違いない。まぐれではないのだ。
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