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空になったグラスにウィスキーを注ごうとした手を、横からすっと伸びてきた手に止められた。
机に肘をついて額を押さえたまま、その主の顔を睨みつける。
相手は呆れ顔でため息をつき、ウィスキーのボトルをあたしから遠ざけた。
「飲みたい気持ちはわかるけどさぁ、そろそろやめとけって」
あたしはわざと大きく息を吐き出して、彼と反対方向に目線をやった。
火照り始めていた頬に、相変わらず冷たい自分の手を当てて、今度は小さく息を吐く。
彼、池澤景吾は、基本は明るいし面倒見もいいのだが、お節介なのが玉に瑕だ。
「いくら酒に強いからって、こんなに酔うことないだろ」
「うるさいな、まだ酔ってないわよ。全然飲んでないじゃない」
と言いつつも、自分が今までにない程大量のお酒を飲んでいることは自覚していた。
この店に来る前に、違う居酒屋で呆れるくらい飲み、こっちに移動してからも既にウィスキー一本半分を飲みきっている。
だが、そんな今の状況をしっかり理解しているうちはまだまだ平気だろう。
「はいはい、もういいから帰るぞ」
「やだ、まだいる」
あのなぁ、とまた彼が口を開きかけた瞬間。
それを遮るように、彼の携帯の着信音が響いた。
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