第1章 憂さ晴らし

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「うわやべ、課長じゃん」 彼は軽く眉を寄せて立ち上がり、電話を耳に当てながら離れていった。 あたしはその隙にウィスキーのボトルに手を伸ばし、悠然とグラスに注いだ。 そしてその一杯を飲みほしてすぐ、彼が足早に戻ってきた。 「悪い、今から会社行ってくる」 あたしの所作に触れることもなく、慌て気味に帰り支度をする彼を見ながら、眉を寄せた。 「トラブル?」 「ああ、今日は泊まりだな」 彼の言葉に、あたしの方が顔を歪めた。 泊まりということは、余程大変なんだろう。 突然の不運に見舞われた彼へ、同情心を込めた眼差しを送る。 「お金今度でいいから、もう行きなよ」 「ごめん、じゃあ頼んだ」 鞄を手にして出て行こうとした彼だったが、何かに気付いた様子で足を止めて振り返った。 また小言を言われるのかと、あたしは内心身構える。 だが彼が見たのはあたしではなく、カウンターの向こう側だった。 「宮野さん、香苗のこと頼みます」 この店ただ1人の店員さん、というより店長さんにそう一言言い残して、今度こそ彼は出て行った。 彼のお節介にいい加減呆れたあたしは、再びため息をつきながらウィスキーを新しく注ぎ足す。
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