第一話「ああ素晴らしきこの日常」

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 あくまでも、『地味で目立たない』というのは『一般的』という定義から抜きん出てはいけないのだ。前述した格好で私が通っている高校の教室に現れたとしよう。入室した瞬間に、クラスメイトの視線が一身に向けられることだろう。それはつまり『地味で目立たない』どころか、『悪目立ちしている』人間として認識されてしまう。集団から良くも悪くもはみ出ない。重要なのはとにかくその一点なのだ。  さて。  今の私は、黒髪を右側に一本に纏めて結び、スカートは膝よりも気持ち上、足元は紺のハイソックスという、公立高校に通うごく一般的な女子高生と呼べる格好をしている。眼鏡は透けた茶のフレームだが度は入っていない。これは目立たない為というよりも、自分と周囲に目に見える線を引くことで距離感を間違えないためだ。案外と便利な小道具である。  特徴があまりない、どこにでもいそうな女子高生。目指すのはそこなのだ。こうすれば通行人Aのできあがり。ここに落ち着くまでは試行錯誤したが、今のこの貴重な時間を得られたのだ。満足している。
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