4人が本棚に入れています
本棚に追加
運転手は、夕刊を取り出した。
「車内サービスです。一面の事件は大変興味深いですよ」
「ありがとうございます」
受け取った瞬間、私は目を疑った。
一面にかかれていたのは強盗殺人事件だが、犯人はさっきの男だった。
「まさか、そんな…」
「正直焦りましたよ。あなたは気づいておられなかったようですが、今すごい騒ぎになっていますよ」
私は恐怖を感じた。
殺人犯と接触したのだから。
しかも、逃走中に。
「すでに通報しました。この車には、非常連絡装置があるのですよ。逮捕も時間の問題でしょう」
運転手ラジオをつける。犯人のニュースを聞くためだ。
「臨時ニュースです。本日七歳ビルにて起きた強盗殺人事件で指名手配されていた男が逮捕されました」
ラジオのアナウンスに、運転手は安堵の表情を浮かべる。
しかし、ラジオからは予想外の真実が伝えられる。
「男は現場の貯水タンクに身を隠しており、巡回していた警備員に拘束されました。男は奴が来る等意味不明の発言を繰り返し、犯行の動機についても確認が難しい状態にあります」
運転手は私に質問をする。
駅で男に遭遇した事や、男が発言した事を。
駅から事件のあった七歳ビルまでは約10キロ離れている。
タクシーに乗ってからまだ5分も経っていない。
「少し調べてもいいですか」
運転手は車を止めた。
「この車内は、事故が起きた場合に備えて録画をしています」
前のモニターに映像が写る。5分前の映像だ。
しかし、そこには誰もいない外に向かって話す私と運転手の姿だった。
「誰もいない。そんなばかな」
後ろの映像に切り替わる。
誰もいない。
「行きましょう。どうやら、悪い夢のようです」
モニターを消してタクシーは夜の町を走っていった。
最初のコメントを投稿しよう!