ファウルボールの行方

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〇東郷ドーム グラウンド(夜)  スコアボードは1―1の同点、8回裏。  満塁のランナーの中、審判に代打を告げる風間(かざま)貢一(こういち)(52)。ユニホームの胸に「GreatChickens」とのチーム名が書いてある。 アナウンス「9番、ピッチャー斎藤に変わりまして、代打風間。背番号10」  バッターボックスへ入る風間(かざま)(すぐる)(19)。  ワンバウンドのクソボールを見事にバットにのせる。 野球放送「ルーキーの風間、驚きました、超悪球をジャストミートです!」  しかし、飛んだコースがセカンド正面でゲッツーとなりチェンジ。 野球放送「あー、残念。グレートチキンズ、勝ち越しのチャンスを逸しました。風間、惜しかったんですけどねぇ……」  観客席から失望の野次が飛ぶ。  呑気な顔でベンチへ戻る卓。 〇同 記者席(夜)  肩をすくめて息をつく野々村(ののむら)結子(ゆいこ)(28)。 結子「バカか。気迫がないんだよ、気迫が」 〇同 グラウンド(夜)  高く舞い上がり、外野席へ飛び込む打球。  両手を上げてベースを回るグレートチキンズの二宮(にのみや)雅樹(まさき)(25)。 野球放送「二宮、見事なサヨナラホームラン!」  ベンチ前に、二宮に向かって両手を差し出す選手達が並ぶ。  二宮、次々に手を合わせて答えるが、卓の差し出した腕には手を出さず、無視して通り過ぎる。  笑顔のまま手を引っ込める卓。 〇同 ベンチ裏(夜)  不敵な笑みの貢一を記者達が囲む。  記者達はへらへらと貢一の機嫌をとる。 記者1「いやあ、緊迫したいいゲームでしたねえ」  笑顔で頷く貢一。 記者2「8回にチャンスを逃したときはどうなるかと思いましたけどねー」  記者2をじろりと見る貢一。  ビビる記者陣。 記者3「バ、バカ、タブーだそ、風間ジュニアのことは」 記者4「出入り差し止めになる」  記者2はオタオタする。  結子が貢一にレコーダーを向け、ピシャリと言い放つ。 結子「打率1割の風間をあそこで代打とは采配ミスですね。息子に甘すぎませんか?」  唖然とする記者陣。 記者3「『東都スポーツ』の激辛キッコだ」 記者4「アホか、あいつ。球界のドンを敵に回したらこの業界、やっていけないぞ」  苦い顔から困った顔になって、結子の肩を叩く貢一。 貢一「ま、そう言いなさんな」  拍子抜けする記者達。 記者達「な、何でー?」  歩き出す貢一についていく記者達。  結子が一人残っていると、ひょうひょうと卓が出ていく。その前に二宮が立ち、卓の目の前に唾を吐く。 二宮「坊ちゃんはやる気なくても食いっぱぐれなくていいよな」  卓はそれでも笑顔のまま。  結子、肩をすくめて立ち去る。
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