ファウルボールの行方

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〇電車の中 サラリーマンの広げる新聞、東都スポーツ。そのコラムに『親バカで汚すプロの汗』の見出し。 〇『東都スポーツ』コラム『ファウルチップ』 あそこで風間が打てないのは誰が見ても明らかだった。大体ベンチ入りできるというのがおかしい。野球はいつから世襲制になったのか?    BY キッコ 〇グレートチキンズ練習グラウンド 松本(まつもと)(24)と共に入ってくる結子。 選手達は、結子の姿を見るや否や、潮が引くように逃げていく。 選手1「激辛キッコだ」 選手2「食いつかれるとボロクソ書かれるぞ」  そんな中、二宮は結子を見ると軽く会釈をする。  結子も会釈を返す。そしてバッティング練習をしている卓のところへ歩いてゆく。  どんなコースの球がきてもジャストミートする卓。 松本「いい当たりっスねえ」 結子「……」 休憩の声がかかり、座り込んで汗を拭う卓にレコーダーを向ける結子。 卓「……見ましたよ、昨日の『東都スポーツ』。ボク、そんなにひどいですか?」 結子「手、抜いてるでしょ。もっとできるくせにやる気が無い」 卓「あ、キツイなあ。でもボクのせいでレギュラー取れない人出たらと思うと、力出なくて」 結子「だったらプロやめるべきですね。優しさと根性の甘さとをはき違えてますよ」 卓「ボ、ボクはただ……」 結子「そんな精神でゲームに出てこられちゃ不愉快よ」 絶句する卓。 結子、はらはらしている松本を連れ、とっとと出ていく。 〇駅 売店 『東都スポーツ』には『風間ジュニアのプロ根性は仲良しクラブ』の大見出し。飛ぶように売れる。 〇カレー屋「いんでぃ」  結子と松本の二人だけ。 結子「ああむかつく。30倍カレーおかわり」  平然と激辛カレーを片づける結子。松本はその匂いだけでくらっとする。 松本「キョ、キョウレツー!」 結子「まだおさまらん。次はきついコメント集めてもっと叩いてやる」 松本「……何かうらみでもあるんスか?」 結子「ああいう甘ったれが許せんだけ」  河埜(こうの)(34)が店に入ってくる。 河埜「キッコ、また部数伸びたぞ」 結子「皆親バカ采配に頭来てる証拠ですよ」 河埜「なんせ、風間二世(ジュニア)のネタはウチの独占だからな」 松本「デスク、どうしてですか?」 河埜「キッコは特別なんだよ」 松本「え? ま、まさか監督のコレ?(と小指を立てる)」  松本の頭をひっぱたく結子。カレーを物凄い勢いで口に入れる。 松本「ねーデスク。よく平気で食えますね、キッコさん」 河埜「あいつの癖だよ、頭に来たときの。激辛キッコと呼ばれるのは記事のせいだけじゃないの」  河埜 に頭を叩かれ、肩をすくめる松本。  勢い良く立ち上がる結子。 結子「行くわよ、松本(まつも)っちゃん。高校時代のチームメイトへの取材!」  素早い足取りの結子に、慌ててついていく松本。
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