ファウルボールの行方

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〇結子の部屋(夜) 何度も録音を聞き直し、編集している結子。 ポップコーンを頬張りながら、その様子を見ている朱子。 〇病院 卓の個室 腕に包帯をしているが元気そうな卓。 入ってくる結子を見て嫌な顔。 卓「マスコミはお断りしてるはずですよ」 結子「今日はお見舞い渡しにね」 差し出されたUSBに、不信感たっぷりの卓の顔。 結子「一言言っとくわ。フェアグラウンドに飛ぶボールとその外に飛ぶボールの違い。そのくらいわかりますよね」 卓「……ファウルボールのことですか」 結子「人間もそういう風に分類できるってこと。あんたは生まれながらにフェアグラウンドにいるの。その行方はホームランになる可能性だってある。カウントされないファウルとは違うのよ」 卓「……?」 つかつかと出ていく結子。 〇同 廊下 ソファに座っている貢一が出てくる結子を見上げる。 貢一「カウントされないファウルってお前のことか」 結子「して下さらなくて結構です」 早足で歩いていく結子。 結子「(つぶやく)ファウルはどこまで行ってもファウルでしかないから」 〇同 卓の個室 録音を聞く卓。 録音音声1『すごい才能の奴だったよ。さすがあの風間貢一の息子。なのに手抜きしやがって。下手な奴が足手まといになるよりもむかつくね、そういうの』 録音音声2『レギュラー争いなんてあいつの打撃を見ただけで皆納得してました。オレ達とは格が違うって。そりゃ初めは波風も立ちますよ。ま、そんなことでつまづくところがあいつの弱点ですね』 録音音声3『やっと取ったレギュラーを簡単に奪われたからね。そりゃ恨んだよ。でもどこかで自分に限界を感じていたから実はホッとしたところもあったんだ。これで野球やめる言い訳ができたってね。でも卓の限界はもっとずっと上にある。行くところまで行ってほしいね』 涙ぐんでいる卓。
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