バックスクリーンは見ている

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〇同 記者席(夜) 松本「ウソーッ! 守備の福岡っつったら玄人筋じゃ最高レベルなのに」 結子「福山よ」 松本「あ、そうそう」 まだ呆然としている福山と、マウンドを蹴り続け、ついには唾まで吐く矢部を見つめる結子。 〇同 一塁ベンチ裏(夜) 矢部がその辺にある物を全て蹴飛ばし、自分のグローブをごみ箱に投げ捨てて歩いていくのに記者達がくっついていく。 記者1「気の毒でしたね、矢部さん」 記者2「あれで負けがつくんじゃね」 矢部「だろ? クソッ、次は見てろよ」 結子、矢部のグローブを拾ってそれをはたく。 結子「あら、次があるんですか?」 矢部「……どういう意味だ?」 結子「商売道具を捨てるから、もうやめるのかと思いましたよ」 松本「キ、キッコさあん」 ハラハラする松本。 記者1「東都スポーツの『激辛キッコ』だ」 記者2「記事と同じくお辛い発言」 カッとする矢部にたじろがない結子。 結子「一人で試合背負ってると思ってるんですか?」 つかつかと結子に歩み寄る矢部。 矢部「あいつのエラーさえなかったらオレは勝ってたんだ。やめるならあいつだ!」 怒り爆発、激しい足音を立てて歩いていく矢部。 入れ違いに仏頂面の風間が出てくる。 矢部にたかっていた記者達は、一斉に風間を取り囲む。 記者1「監督、今日の矢部の出来をどう思いますか?」 風間「どけ!」 すごい形相、やはり不機嫌な風間の迫力にビビる記者達。 記者1「そ、そう言わないでコメント下さいよ……」 記者1の腕をつかんで引き戻す記者2。 記者2「バカ、風間監督は負け試合はコメントなしなんだよ」 記者3「そうそ、あの『球界のドン』に逆らったりしたら、今後この仕事できないぞ」 腰のひける記者達を後にして、ズカズカと行ってしまう風間。 結子「フン、お偉い態度よね」 松本「キッコさん、お願いですから『球界のドン』本人に向かって言わないで下さいよ」 ロッカーから出てくる選手達、結子を見ると慌てて避けていく。 選手1「激辛キッコだ」 選手2「食いつかれるとボロクソ書かれるぞ」  敬遠する選手達を、フフンと鼻で笑って見る結子。 結子N「あたしは『東都スポーツ』の知る人ぞ知るプロ野球担当記者。なぜかと言えばあたしの書く『ファウルチップ』は選手を一人ずつ吊るし上げるコラムとして有名なのだ。今回はこの矢部がターゲットである」 肩を落として出てくる福山。無言で見送る結子。
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