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「よし。疲れは癒えたかフィニ?すこし強行だが・・・あまり時間はかけずに、ユウラを越えるぞ!歯を食いしばっても付いて来い。」
「もちろんです。」
長い休息を終え、僕らは最後の難関に挑む。
「余計な感情は一切捨てろ。目の前の足場に感覚を集中させろ。」
「はい!」
力強い返事の後、ナルガ様は歩みを始めた。
少しづつゆっくりではあるが、確実に進めていく。
今までは並ぶか、少し後ろを歩いていたけど、今回はナルガ様が一定距離進んだ後を足場を確かめながら、その後ろを進むようにしている。
実際はどうかわからないけど、感覚的には長らく平坦だった尾根が次第に降りているように感じた。
その心の隙を山は見逃さなかった。
-な!?
突然足場が崩れ、跳んで回避出来たもののさっきいたその場所はぽっかり穴が開いていた。
「強欲。思いの強さはそのまま体にあらわれる。・・・気をつけろよ。」
ナルガ様はその場所を見つめて、静かに僕に言った。
「・・・はい。」
僕は冷や汗を拭い、一度呼吸を整えた。
ナルガ様は軽く辺りを見回したのち、一度息を吐くと「お前が先に行け。」と僕に先行を命じた。
一瞬戸惑ったが、ナルガ様の目に不安を抱きつつもその指示に従った。
大げさに言ってしまえば、生まれて以降ずっとその姿を見ている。
母さんや父さんは7年しかその時を過ごしていないのに対し、ナルガ様はその前もその後も一緒にいる。
だから分かる。感じれる。
その不安を。その指示は僕への最大の配慮だと。
その不安を示すように、ナルガ様は僕に優しく笑った。
「安心しろ。私が後ろからついている。だから何があっても振り向くな。前を見ろ・・・フィニ・・・もし山を下った後、私が1日経っても姿を見せなければ、エンドフィル収容所でアーサー王の子息達を助け出せ!そして平原の遊牧民と合流しろ!!いいな!?」
「ナルガ様!約束して下さい!!必ず来ると!こんなとこで死なないと!」
きっとナルガ様がそう言った以上、この後何かが来る。
生物が存在しないはずの、この山で。
生きたいとすがる欲ゆえか、自然の気まぐれなのか。
「あぁ約束しよう。大丈夫。必ず合流する。」
-死ぬときはエリザのもとで、と決めてるからな。といたずらに笑って。
僕はその言葉を聞きその場を去った。
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