第2話・星降る聖夜のロマネスク

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 初めてのギルドの仕事を終えてから数週間後。  あたしの心の中は、ある大切なイベントの事で一杯になって いた。 「聖夜祭」  それは恋愛と幸運の女神、ラスティオナを讃える日。  彼女は戦の神、ウィツロウスを巡り数多の女神達と争い、彼 の愛を得たと言われている。  これはあたし達の生きるこの世界に、感謝を捧げる為のイベ ント。或いは…愛し合う、恋人たちの為に用意された特別な 日でもある。  それは奪う愛さえも許される夜。  それは妖精族であるあたしにも許された、一夜限りのラブチ ャンスでもあるの。  軍神ウィツロウスよ。願わくば、あなたの娘であるヴィヴィ アンの恋が成就されますように!  そして恋愛の女神ラスティオナ。貴女の子孫である、ヴィヴ ィのお願いをどうか聞いて下さい。  あたしは簡潔なる祈りをささげた後、溜息交じりにパブのテ ーブルで頬杖を突き、これからの事に想いを馳せていた。  パブの1階、ホールの片隅に彼がいた。  ミーグリン・チャンリッヒ。   キャットテイルの魔導士を生業とする青年。  魔導を得意とするエルフ達に負けない、高い魔力と豊富な知 識を誇る優秀な魔導士。  あたしの憧れ……  でもね、これって所詮は叶わぬ恋。  そんな事、考えなくったって、言われなくったって解って る。  だってあたし達、種族が違い過ぎてるもの。  でも、だからこそ今度の聖夜祭に願いをかけたいの。  一夜だけでいいから、恋する乙女の願いを叶えて欲しい って。  暫くの間あたしは、読書に専念するミーグリン様の華奢な背 中を見つめていた。  先日の初仕事での彼の姿が、ありありと脳裏に浮かんで くる。  立ちふさがる強敵に、怯む事無く魔法で立ち向かう彼の姿。 本当に素敵だったわ。  ともに魔導を学ぶ者同士、という感情だけでは無い事に気が 付いたのは、この仕事が終わりに近づいたころだった。  その想いをここ暫く胸に抱き感じ続け、そしてあたしは決意 したの。  今度の聖夜祭で、彼に告白しよう。  あたしの想いを彼に打ち明けよう……って。  結果がどうあれ、何も行動をせずに諦めてしまうなんて、あ たしには到底我慢出来ない事だったから。  そしてさらに考え続けたあたしは、ふいにある考え、それも 限りなく、聖夜祭にふさわしいと思われる考えに辿り着いた の。
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