6人が本棚に入れています
本棚に追加
見渡す限りの青空。
住宅街の中心で、堂々と咲き誇る桜並木。
ジョギングをしている男性や、犬の散歩をしている女性、はたまた夫を送り出している主婦やゴミ袋を抱えて歩く老人。
そんな行き交う人々が、どことなく陽気に見える今日この頃。
全てがきっと良い方向に進むと思えるその光景に、僕もウキウキしながら家の門を出て歩き出す。
「おーい、星宮ー」
が、桜の道を一歩踏み出したところで聞こえた低い声に、僕はピタリと動きを止める。
冷や汗が半端ない。
何が、『全てが良い方向に進む』だ。
朝一番にアイツに遭遇するなんて、ついてないにも程がある。
「くっ!」
幸い、アイツよりも僕の方が運動能力は高い。
走れば振り切れるはずっ!
ただいまの僕の格好は、真新しいスーツ姿。
今日は就職が決まった企業への出社日で、本当なら汗だくで向かいたくなどないが、仕方ない。
あの悪魔に捕まることを考えたら、数百倍はマシだ。
「星宮、なぜ逃げる?」
そう割り切って走り出そうとしたところで、前方から悪魔二号の可愛らしい声が聞こえる。
案の定、目の前には後方の悪魔の、双子の妹がいる。
はたから見る分には、低い身長さえ気にしなければモデルと言われてもうなずけるほどの美女と、やはり低い身長さえ気にしなければどんな女性をも虜にするほどの美男に挟まれている状態だ。
もしかしたら、羨ましいとか思う人間がいるかもしれないし、嫉妬に駆られて殺意を込めて僕を見る人間がいるかもしれない。
しかし、だがしかし!
この状況に置かれている僕としては、心の底から叫びたい。
『誰かこの場所を替わってくれっ!』と。
「嫌だっ! お前らと関わってたら、命がいくつあっても足らないんだ!!」
切実なその叫び。
しかし、コイツらはそんな僕の事情などお構い無しだ。
「大丈夫……今回は、命の危険はないから」
「そうだぞ星宮。今回は、ボク達の頼みを聞いてほしいだけだから」
最初のコメントを投稿しよう!