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『今回は』という言葉を良い笑顔で強調する二人。
これまで、僕はこの二人の悪魔、月田小司(つきだしょうじ)と月田小崋(つきだしょうか)の兄妹に幼い頃から振り回されてきた。
いわゆる幼馴染み。
そして、腐れ縁でもある。
その二人は、なぜか、これからパーティーにでも出かけるのかと言いたくなるほど、きらびやかな服装で、小司は燕尾服に白いポケットチーフまで入れていて、小崋はマリンブルーの鮮やかなドレスに身を包んでいる。
しかも、二人して恐ろしいまでに似合っている。
こんなにも目立つ幼馴染みに見つかったことを、僕は心の底から後悔しながら、せめてもの抵抗を試みることにした。
「い、嫌だっ! 僕はこれから初出社なんだ! 社会人の仲間入りをしてくるんだよっ!!」
懸命に反論して、僕は二人から逃れようとする。
ただ、僕は……平々凡々な顔を持って生まれた星宮祐輔(ほしみやゆうすけ)は、この二人に逆らうことなどできない。
なぜなら……。
「そうかそうかー。なら、ちょーっと、ボクが口を滑らしても大丈夫ってことだよな」
「たしか、六歳のとき『僕は勇者になりたい』って言ってむぐっ」
「わーっ! わーっ! わーっ!」
止めろ、止めてくれっ!
そんな黒歴史を公衆の面前でさらさないでくれっ!!
慌てて行動した僕は、自分が何をしたのかに気づけなかった。
「ふむ、星宮。君は社会人なんだよね? それなのに、女性の口を塞ぐなんて……セクハラで訴えてもいいかな?」
とんでもないことを平然と口走る小司に、僕はギョッとして今の状況を認識する。
……僕は、小崋の口を両手で塞いでいた。
「い、いや、これは違うからっ」
バッと小崋から離れた僕は、そう言い訳をする。
「……星宮の、変態」
「うぐっ!?」
性格とか、性格とか、性格とかは、たしかに悪いけれども、これでも小崋は美女だ。
悪魔だろうが、悪女だろうが、魔王だろうが、美女にそんなことを言われてショックを受けない程、僕の精神は図太くない。
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