はろーはろー

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「……睨んどらんぞ」  優しい声音というのがよく分からないので、できる限りゆっくり答えてみた。  女性は明らかにほっとしたようで、ぱっと表情を明るくする。 「ほ、ほんま? あーよかったー、えらい怒らせてしもうたんかってびっくりしたんよー」 「……そこの階段を降りたら訓練所の辺りに出る。適当に誰ぞ捕まえて道を聞け」  確か迷ってどうのと言っていたはずだ。廊下の奥に見える階段をくいと顎で示した。  自分も下に降りる用事があったのだが、彼女の様子を見るに同行はしない方が良さそうだ。  さて、困ったぞ。他の道は分からん。  とりあえず下に降りよう、と窓に飛び乗って身を乗り出すと、また女性は短く悲鳴を零した。 「ありが……ひっ!? なっななななんしょん!?」 「降りる」 「じさつ!?」 「いや、降りる」  こんな所で投身自殺なんぞ図っても癖で着地してしまう。  まだ混乱している様子の女性がひたすら遠くから必死で思いとどまるように説得を重ねてくるので、面白くて少しだけ笑った。 「俺はアガタじゃ。これでも中佐をやっとってな。この程度じゃ死なんよ」  そのまま宙に身を投げた。  一瞬の浮遊感と風に身を捻り、地面に無音で着地する。  上を見上げると窓から上体を乗り出した彼女がぽかんとしていて、やけに面白かった。
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