第1章

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「房江さんには助けられてるよ。何度も見舞ってくれただろ? さっちゃんも心強いってさ。男って、いざとなるとだめだなあ、実感してるよ」 「そうだな」 「赤ん坊ね」武は言う。 「きれいな顔してたよ。男の子だった。蝋人形みたいに真っ白でなかったら、どうして息してないんだろうと不思議になるくらいだったなあ。小さい子は皆同じ顔してるって言うけど、うそだね。あの子ね、さっちゃんにすごく似てた。きっと賢くて頑固で強い子になったんだろうなあ」 「残念だった」 「ううん」武は首を横に振る。 「これが運命だった。仕方のないことだ。僕たちは、もう子供を持つことはない」 「そう決めつけなくてもいいのではないか?」 「決まったの。お医者さんが言ってた。今度のことでさっちゃんの身体はすごく痛め付けられてしまってさ。奇跡が起きても子供を産むのは不可能だって。そのことは彼女が一番良くわかってる。自分の身体に起きたことだから。僕は今まで以上にさっちゃんを守らないといけないのにさ、すごく怒らせちゃったよ」 はあ、と大きくため息をついた。 心身共に傷付いているのは、何も彼の妻だけではない。武も深く傷を負っている。 男と女が寄り添い、愛し合うのは簡単だ。いたわり合い、哀しみを共有し、相手を責めず、自分も責めすぎず、できてしまった傷を直視して共に生きる。言葉で言うほど容易くはない。 今後も人生を共にできるかどうかはふたり次第となる。 私はどうなのだ、もうすでに房江と茉莉花を傷付けた。 慎は自問する。 ふたりの女にそれぞれの子供を守ると、信じさせることができるのか。 ――やらねばならない。 今の私にはどちらかを選べないのだから。
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