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ぼくは、彼女の耳の後ろに、指を這わせた。睫毛が長い。ぶつかった鼻の頭が、くすぐったかった。日蝕のように瞬間……、名残惜しく、距離を広げる。
天使が悲鳴。スカイブルーが反撃に転じた。まとわりつく群れを力任せに振り払い、大腿部のパーツをカシャンと開く。飛びだしたライフルのグリップを抜き、折り畳み傘式に、銃身をいっぱいに長くした。コッキングバーを手前に。装填。トリガーを引いた。風を切る。枝分かれし、枝分かれし、白い軌跡が、尾を引いた。
一面、弾幕。
猛スピードのホーミング弾が目標を捕獲、追跡。飛び回る天使に次々命中。赤い破裂を空に咲かせる。断末魔の叫びが響く!
真っ赤な粘性の液体が降り注ぎ、ビルを染め、夕焼けがそれを一層濃く魅せ、目がチカチカするほどだった。見下ろす町のすべてが、なにかの嘘みたいに、赤かった。
ぼくたちは二人並んで、戦場から離れた安全側から、そいつをみていた。
――と、体育館から歓声が。避難指示が解けたみんなが表にでてきて、スカイブルーの勝利を讃えた。そこには、ぼくたちの家族の姿もあった。クラスの連中の顔もある。
人類の最終兵器は、今回も勝利した。この終着点、最果て町で。ナニに対する勝利なのかもわからぬままに。唯一わかる現実は、負けたときには“終わる”ということ。敵は次第に強さを増してきている。人類はいつまで勝ち続けることができるだろうか。いつかは負けてしまうのか。わからないけど。でも、いつかは終わってしまう世界だとしても。
「竹中だけは、ぼくが守るよ。この命に代えても……なんてね」
つないでいた手に、ぎゅっと強い力が返った。今、竹中がどんな顔をしているのか、とても興味があったけど、初めてのキスの味を思いだし、ぼくはそちらを向けないままでいた。
了
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