放課後弾幕サンセット

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 立入禁止の屋上にいた。ペントハウスを背にしたぼくと竹中の間には、購買で買ったコーヒー牛乳のブリックパックが二つ並んで、ぬるくなる。彼女は膝を抱えて三角座り。その横顔の……。一番紅い部分を意識する。ぼくの内側の男子が騒ぐ。ものの本によれば、それは檸檬の味がするらしい。  目があった。  いきなりこっちを向くから、驚いて声がでかけた。ヨコシマな心を読まれたか? ぼくは意味なく、へへへ、と笑う。  竹中は笑っていない。瞬きしない。強張ったふうの唇だった。  ……唇。  唇。  唇。  クチビル。  檸檬の味の。  もうつきあって半年だ。なあ、これって自然なことだろう? 自然なことさ。と自己肯定。さっき、誰かが僕のことをヨコシマだと指摘した気がしたが……。え、誰がヨコシマだって? うるさいよ。黙ってろ。  今日こそは……。  まだ、みつめあってる。すでに何秒?  そうだ。もはや、言葉はいらないさ。この空気。そして、この至近距離。目と目で二人は通じあう。すでに、こちらの意志は伝わったと思って良い。ヤなら、とっくに目をそらしているはずだ。でも、視線は交差したままで……。  つまり、イコール、ついに、ぼくはその唇に!  ――のはずが、スルリ、と空振る。  不意に立ち上がった竹中は、早足に前へ行ってしまう。空振った唇のぼくが横目に追えば、手摺の手前、夏服のスカートが翻る。鉄棒の懸垂の要領で身体を上げて、彼女はその不安定な手摺の上に、あちら向きに腰かけた。ここは屋上。細くてまっすぐな両脚は、高い宙にブラブラ揺れる。  ぼくも同じ方向に目をやった。  雲が動く。動きが早い。逆光の彼女が見下ろす町の景色に、スカイブルーの人型が立っている。装甲の角っこが陽の橙色と干渉し、妙に深い色合いだった。その頭上を天使の群れが飛び回る。そちらは人型に比べればずいぶん小さく、数は絵筆の先を弾いて斑点を散らしたほどの大群だ。背に生えた白い翼が、ブブブ、と羽音をたてている。 「たとえば、この瞬間にも、どこかで、誰かが生まれているのよ」竹中の声が低い。「どうせ、いつかは死ぬのにね」バカみたい……、と彼女は手摺の反対側にピョンとかるく降り立った。  反射的に、ゴクン、と硬い唾をのむ。 「……危ないよ。竹中」  多分、顔はひきつっていたと思う。ぼくは、高所恐怖症なのだ。
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