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横に一歩二歩と進んだ上履きの足が「人間は間違えたから」そう呟いた。
「間違えた?」ときき返す。
「増えすぎたのよ」
「よくわからないよ」
「きみは、ズルいよね」
うまくききとれなかった。聞き間違いか、と考えた。ズルい? 竹中は器用にバランスをキープしながら、サーカスのピエロみたいに、右に左に行き来する。手摺の反対側には足イッコぶんの縁しかなくて、強い風でも吹いたら……とぼくはヒヤヒヤだった。そればかりが気になって、構えた体勢になってしまう。
「ズルい、ってなにが?」
返答がない。ガン無視された。正直ヘコむ。デリケイトな心が傷ついた。
彼女は薄く頬をゆるませた。
……ああ。キた。始まった。彼女は時々こうなった。なんというか、女子は造りが複雑なんだ。なにがあったかは知らないが、今日は稀にみる不機嫌ではなかろうか? 正直、全然笑えない。
女子の考えることは、わからない。
いよいよ困り顔になったぼくに気づいた竹中が、下唇を強く噛む。「ダメ。最っ低だ……、私。死ねばいいのに」ときこえた気がした。
沈黙。
「……危ないよ、竹中」さっきと同じ言葉を口にするぼく。
そのとき、頭上を羽音が通過する。空を遮り、屋上全体が、束の間、翳る。抜けた羽根が一本、ひらりひらり、とぼくの足許に落ちてきた。見上げれば、続けて二匹三匹。更には別の方向からも――。敵側の増援部隊だ。すごい音量、天使が歌う。ガラスをひっかくのに似た声だ。鼓膜が、どうにかなりかけた。ぼくは両手で耳を抑える。歌で仲間を呼んでいる? スカイブルーは必死に応戦。手の届く範囲から順に、殴り飛ばして、回し蹴り、羽をむしり、四肢を裂き、頭をもいだ。悲鳴と鮮血を撒き散らす。しかし、受ける損傷はそれを凌いだ。とにかく数が多い。多勢に無勢。ヤツらは数匹潰された程度では怯まない。背側の装甲を大半喰われ、機械系統が剥きだしに。ついには、スカイブルーの首の後ろに、直に歯が突き刺さる。圧倒的な数量差――スカイブルーは劣勢だ。
「きみ。昼休みに、二組の女子と話してたね」
「え?」
竹中がぼくに振り返る。
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