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ぼくは思いだす。あっ、あれか。昼休みに、二組の女子と会話した。今学期、同じ委員になったコだ。そのとき話した内容も、委員関係のそれだった。たしか、提出物の期限の確認だった。二言三言は交わしたか? 客観的に考えて、あの女子は、誰に対しても間合いが近い、割と男子受けしそうなタイプだと評価はできる。この場合、ぼくの好みかどうかは別として。
で。竹中は唇を尖らせている。「楽しそうに話してたよね」と。
これって……。んあっ。もしかして、嫉妬? シット? あの竹中が? しかし、それが不機嫌の原因か。ぼくは、ぷっ、と吹きだした。
「違うよ。あれは、」
誤解を解こうとしたぼくの目に飛びこむ――閃光。かぱっ、と開いた天使の口からビームが走る。スカイブルーの上腕を貫通。一直線、校庭裏の鉄塔にぶち当たり、ズン、と折れた先端が地面を揺らした。竹中は、突然の轟音に、ビクリと身体を震わせる。両手が、掴んでいた手摺を離れる。制服の身体が斜めに浮いた。
「竹中ッ!」
ぼくは駆け寄る。
細い腕を掴みとり、引き寄せる。
しこたま後ろに背中を打った。痛ってえ。重っ。ダブルのダメージにヤられて、気づいたら、前髪と前髪が触れそうな距離に、顔がある。
呼吸を、してはいけない気が、した。
「きみ。血がでてる」
真上から息がかかって、ぞくっ、となった。起き上がれない。ぼくは親指で額をなぞる。地面でスったか、触るとヒリつく。そんなことよりも……。髪のにおいが、やたら甘い。どんなシャンプーを使っているのだろう? 近すぎて、目のピントが合わずにズレた。竹中には、ケガはない。安心したら、彼女の肩に下着の線が透けているのが気になる現金なぼくだった。
「……しても、いい?」
ヤっベ。口走った瞬間に後悔していた。
だって、そのときの竹中の目と言ったら……。さっきのカワイイ嫉妬は幻だったか? 目を閉じる。死にたい。今のナシ、ではもう遅い? 軽蔑された。嫌われた。ぼくは、とっくに泣きそうだった。
「やっぱり、ズルい……」と竹中の声が。「そういうこと、きかないで……」
頬が一気に熱くなる。
目の前の顔も、同じに変わる。生まれて初めて門限を破る少女さながらに紅潮した頬。あるいは、それは夕陽のせいか。
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