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ピピピピッ
遠くで鳴り響く機械音に、意識がふわり浮上する。
ゆっくりと目を開けると、見慣れた白い天井が視界一杯に広がった。
夢…か……
夢だと分かった瞬間、大きな溜息が口から漏れた。
今まで夢なんて起きれば忘れているものだったが、今回の夢は何故か鮮明に覚えている。
…僕のあんな笑顔、初めて見た。
笑顔の自分は小さい頃の写真で散々見てきたけど、それとは違う。
何も知らないからこその無邪気な笑みではない、知っていてなお屈託無く笑える強さがあった。
笑った顔なんていちいち鏡で見たりしないけど、断言できる。
今の僕にはあんな笑みはできない。
未だに鳴り響く無機質な音。
その不快な音にまた溜息を吐いて、僕は頭上に手を伸ばす。
目覚ましの頭を押すと、パコッという間抜けな音と共に部屋が静まり返った。
無機質な音と引き換えに、鳥のさえずりが窓の外から朝を告げてくる。
何時もならこの可愛らしい声を子守唄に、
また夢の世界へ旅立つのだが、今日は違う。
呑気に寝てなんていられなかった。
夢のせいだ。
気になった。
…自分の脚があるかどうかが、無性に。
僕は緩慢な動作で身体を起こす。
お気に入りの黒いカバーの掛かった掛け布団。
僕は黒いそれに釘付けになった。
ただの夢だとはわかっている。
けれど、何故か胸騒ぎがした。
僕は恐る恐る布団に手を掛ける。
いつもより少し速く鳴る鼓動が耳についた。
僕は手に力を込めて、ガバッと一気に布団をめくる。
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