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店には何人か常連がいた。
みんないい人だった。建前は。
大半年上の人だったけど、年の割に子供っぽい人、ガチな恋愛相談を持ちかけてくる人、下ネタとボディタッチを繰り返す人……本当にいろんな人がいた。
その中に彼がいた。
みんなから「空ちゃん、空ちゃん」って呼ばれてて、清潔感もあるし、爽やか。いつもスーツを着て、いかにもデキる男って感じ。まわりが彼をちゃん付けで呼ぶから、私も出会ったその日から彼を「空ちゃん」と呼んだ。
空ちゃんはお酒は全く飲まなかったけど、歌うことが好きみたいで、多いときには週3くらいのペースで歌いに来ていた。本当に歌うのが上手で初めて聴いた時ビックリしたことを覚えてる。
話しかければ笑顔で応えてくれたし、他の人と比べて彼は周囲がよく見えている。
空ちゃんと私は14才年が離れていた。私から見れば彼は完璧な大人の男性だった。異性としてもちろん魅力は感じていたけど、私には到底手の届かない位置にいると思って恋心には気づかないで蓋をした。
気になる……気になる……。
空ちゃんが気になる……。
空ちゃんが来る曜日は決まって火曜と木曜たまに土曜日。
なんとなくいつも空ちゃんを待っていた気がする。
私が空ちゃんを気にするのは恋心だけではなかった。
彼の中にとても黒い陰があるように感じていた。
話せば話すほど見えそうで見えない感覚に囚われる。
その正体なんなのかわからない、わからないけど笑顔の彼の裏側にとんでもなく恐怖には似たものを感じていた。
とても冷たいもの。
とても私がよく知っているもの。
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