二人分

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二人分

 大学に入学して一ヶ月程。  親元を離れての独り暮らしにも随分慣れたが、まだまだ家事は苦手で、食事はもっぱらコンビニ調達。財布の中身に余裕がある時は食べに行くような暮らしをしている。  そういう生活を送るようになって、一つ、奇妙な現象に気づいた。  飲食店に入ると、何故俺のテーブルには、水が二人分置かれるのだ。  誰か他の奴と一緒の時は人数分なのに、俺が一人で店に入ると、必ずお冷が二つ出てくる。お茶でも何でも、ともかく確実に二人分。  何度か店員さんに、間違ってるとか誰の分とか聞いたけれど、そのたび『お連れ様の分ですが』と答えられた。  連れなんてどこにいるんだ。俺は一人で来たのに。  最初の内はそう思っていたけれど、一人で店に行くとコップが二つ出て来るのがオプションになってからは、もう店員に何かを言うことはなくなった。  どこの店員も、一人きりの俺に二人連れの対応をしてくる。これはつまり…何かがいるんだろうな。  水を二つ出されるということは、幽霊か妖怪変化か、はたまた別のものかは判らないけれど、その何かはきちんと人間の形をしているようだ。そして、俺と同じ席に着く、と。  今のところ被害はないけれど、そんなものが同じテーブルに着いているだなんて、考えただけで恐ろしい。  何とか逃げることはできないだろうか。  そんなことばかりを考えていたある日。  立ち寄ったファミレスで注文品を待っている時、強烈な腹の痛みに襲われ、俺はトイレに駆け込んだ。幸いなことに、痛みはすぐ引いて、俺は自分の席へと戻りかけた。その時に…見た。  遅い時間のため、空席が目立つ店内の、窓側の席に置かれた二つのコップ。その向こうの窓にぼんやりと人影が映っている。  長髪…スカート…女だ。顔は判らないけれど、多分知らない女が窓に映っている。  その光景を見た瞬間、天の啓示のように閃きが湧いた。 「あの、すみません。あそこの席の者ですが、ちょっと色々あって…お代置いていきますから、俺が帰ったってことは内緒で」  レジ付近にいた店員に、注文品よりも多めの金を押しつけると、俺は大慌てで店を出た。
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