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「ここだけの話」と、沙弥子さんは私に耳打ちをした。 「はい?」 「匂坂先生の顔を公表できたら、箱崎さん、文芸部いけるかもよ?」 「……なんでですか?」 「いやさ。今の連載、一年の契約で書いてもらってるんだけど、評判いいし、書籍にする方向で話は進んでるんだけど、そのタイミングで顔出し、サイン会とかしちゃったら、すごい話題性でるだろうし、売れると思うんだよね。 うちの文芸部もだけど、今までどこの出版社も口説きおとしたことがないから、匂坂先生のこと。 そんなやり手の編集者がいたらさ、来てほしいに決まってない?」 「まあ、確かに……」 「文芸部の編集長ともこの前話したんだけど、そんなこと、言ってたよ」 「ほっ……本当ですか?」 「まあ、まずはいい作品を書いてもらう為にサポートすることが大事だけどさ。 異動したいんでしょ?先生と信頼関係築いていけばどうにかなることかもしれないし、頑張ってみたら?」 「はいっ」と、しぼんでいたやるきが一気に出た。 女性誌の部署にいながら、作家の先生とお仕事が出来るのは、夢への第一歩だ。 それに、先生のサポートをうまくやって、関係を深め信頼を得れば――それは言うほどたやすいことではないだろうけど、あわよくばそのまま文芸部へ異動できるという可能性がついてくるのなら、余計に頑張れそうな気がした。
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