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「サギサカリクトです。よろしく」と、私の部屋に来た彼は、家庭教師だと挨拶をした。
「サギサカ先生?」
今にして思えばあどけない顔だった。あの頃の先生は今の私より、みっつも年下だったのだから。
だけど高校受験を控えた15歳の私には、20歳の大学生は立派な大人だった。
どう書くんですか?と尋ねると、先生はノートの端に『匂坂凛翔』ときれいな文字で書いてくれた。
「先生の名前って読みにくいですね」
当時、私立の女子しかいない学校に通っていた私は同年代の男子の字を見たことがなかった。
だけどきっと、こんなにきれいに書かないだろうな。私の中の男子は、ランドセルを背負ってふざけている姿で終わっている。
「緊張してる?」
先生は、気遣うように私に訊いた。
「あ、はい」
「勉強始める前に少し世間話でもする?」と、先生は通っている大学のことや、同じサークルの友達の話、小さい頃から水泳を習っていたことを話してくれた。
私は先生に訊かれるまま、質問に答えていた。
学校は楽しい、部活はバレー部だった、担任の先生は男だけど禿げてて人気がない、制服はいまどき珍しいセーラー服で気に入ってる、と。
それから勉強したけど、最後まで緊張は続いた。
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