なな

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「私、ロシアさんが好きです」 ウォトカをあおる。顔がほんのり赤くなったロシアさんが、咳払いをする。腰を引き寄せられ、耳元で少し掠れたロシアさんの声。 「じゃあ、僕のものになって」 ロシアさんの息はアルコールの匂い。それがあまりにも甘くて、危なくて、切なかった。窓の外を見ようとしたら、視界いっぱいにロシアさん。唇に柔らかいものが触れたかと思うと、舌が腔内に入り込んできた。火酒と呼ばれるウォトカは、私の口の中で確かに熱をもっていて、気が遠くなるほど体を火照らせた。 ロシアの人はウォトカを水のように飲むから、水酒と呼ぶのだろうという予想通り、平然と口移しで流し込む。むせかえる私をよそに、ボトルをあおる。口に溜めたのかと思えば、喉仏が動いていたので、飲み込んでしまったのだろう。 「もう、いらないです」 抗議の声も聞こえないふりで、ロシアさんはまたボトルをあおる。また近づいてくるのを予想して、胸板のあたりに力を入れて押し返そうとした。抵抗も虚しく、ガードを突破される。口移しで火酒が注がれる。さっきよりひどくむせて、飲み込めずに口の端から垂れる。 拭おうと手の甲を口元にやるのを、ロシアさんが制止した。手首をまとめあげられて、顎につたう液を舐められる。そのままその舌が首筋を念入りに這っていって、鎖骨に到達すると、強く吸い上げられた。 思わず出た吐息が、あまり得意ではないアルコールの匂いで、手で覆うこともできずただ顔を背ける。 「ああ、もうなくなっちゃったな」 空になったらしいウォトカのボトルを、すぐ側のテーブルに置く。ゴトン、と音がしたかと思うと、手が離され、両手が自由になった。ロシアさんがゆっくりと覆いかぶさってくる。眼を閉じる。ウォトカの味がするキスを味わう。熱くて溶けるほどのキス。 「君が欲しいものは何?」 ロシアさんが好きです。と、心の中でつぶやく。
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