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はち
暖かい空気と
あの人の匂いと、甘い果物を喉に流し込んだ
カップを上へ傾けながら、対面する雪色の髪の毛をした大男の姿を目でさらう
うつむいたその造形は装うことなく、ただ私は心の中でそっとため息をついた
「好きな人に好きって言われたいのよね」
「そう、僕は君のこと好きだよ?」
「そりゃ、よかった」
「ねえこれほんとにウォトカ入ってるの?全然胃が燃えないや」
「香り程度に入ってるのだから、燃えたらただのウォッカじゃない」
「あ、そっか」
「...やっぱ、お酒がいい?」
控えめに言ってみて、様子を伺う。ソーサーにティースプーンをカチャリと置く、柱時計がカチカチと鳴る。
「...僕に気を遣ってくれてるの?」
ほんのりと赤くなった頬に気づいているだろうか。そんなこと、そんなこと言わないけど。
「ちょっとは、気遣ってるわよ。...飲みたいなら、飲んだらいいじゃない」
ティーカップを両手でソーサーの上において、暫く、いや、一瞬だったかもしれない。彼は紫色の瞳で私を見つめて、頬杖をついて微笑んだ。
「嬉しいな」
ただ一言に、何故かとても揺れた。視線をそらして、また見つめ返す。柱時計がカチカチと鳴る。真横に座った客が、視線を強制する。
「でも大丈夫、ここはね、寒くないから。暗くて寒いところに、ちゃんとした灯りがあれば、代わりのものを燃やして灰にせずにすむでしょ?」
「ここ、暖かい?膝が冷え冷えだわ」
「うふ、じゃあマフラー膝にかける?暖かいよ、とても」
「...いいの?それ体の一部じゃないの?」
「一部は全部だよ。ぼくの全部の一部。きみに預けてもいいっていうんだから、かけなよ」
そういって、マフラーを解く。年中露わにならないそこは一段と白く、そしてとても綺麗だった。
「...」
渡された長い布切れに染み付いた彼の匂いが鼻をかすめる。丁寧に、自分の扱いによってミクロほども傷めないように、折りたたんで、膝へかける。
「...ありがと」
雪色の髪がふわりと動く。小首を傾げて、にこりと笑う。
ボオーンと、時刻の変わり目を告げる音を響かせる。胃の奥が燃えるように、じんとした。
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