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きゅう
風に耳をすませた。
不意にゆらいだ空気が、楽しいばかりだった時の思い出を運んできたから。
『すーっといなくなっちゃわないでね。あたし、もう、失くしたくない。...リンク、好きだよ...』
ハイラルが光を取り戻して、4年。
黄昏を共に旅した彼女は、俺の眼の前から何も言わず去っていった。それから俺は、砂漠を越え、果てに消えた世界の先を見るために、名もない地を、名もない旅人として駆け巡ってきた。
君はどこにいるのだろう。
前触れなく現れ、唐突に消えた彼女をたまに思い出す。鈴虫のなく夜に、雨の降る朝に。
『あたしのこと、知っててね』
一緒にいた時の彼女は知っている。彼女と一緒にいた時の俺の事も、彼女は知っている。ただ一つだけの事、それが全てなら、それだけなら救われるのだろうか。
あの時そっけなく聞いた言葉が、深い所まで刺さって、傷になって癒えて跡になって、それを眺めながらまた思い出すような事。
銀色の光が悠々と流れる宇宙に漂う。時間は遠くに近くに距離を取っては消えて、目を瞑る間に、白い侵食を受け入れる。
「あの時だけは、知っていたよ...」
現れては消える光の先、反芻すれば本物になってくれるなら、俺はどこへだって行ける。
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