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なな
「安心していいよ、君を置いてモスクワに帰ることはないから」
乱れてはりついた髪の毛をかき上げて、
ウォトカの入ったボトルをそのままあおる。人間は危機感を感じると、防御反応から体毛が濃ゆくなると聞いたことがある。なるほど、寒い国の人間だからか。予想はしていたものの、目の当たりにするとついたじろいでしまった。
「もうよっぽどのことは経験してるよ。君よりうんと年上だから」
かけられた声に返事をできないでいる私に、何かを悟ったような口調でぽつんとつぶやいた。
「...まだ信じられない?僕は国だっていうこと」
「ロシアさんは、こういうこと何回もしてきたんですか?」
「うん、...」
窓の外に目を向けた。外に出たい、と次の瞬間には思っていた。ロシアさんの眼をみた。あなたが好きです、と次の瞬間に思った。
「まだ、僕のところには来れないのかな?」
「ロシアさん、毛深いんですね」
眼を丸くしたロシアさんを見て、それでも好きです、ロシアさんのところに行きたいです、と心の中で告白する。
「...気になるのなら、剃るけど、もしかしたら国のどこかの森がなくなるかも」
「そんなの大変じゃないですか」
「君が来てくれるなら、森の一つや二つ、なくなったっていいよ。また苗を植えて、水をやって、時を待てば出来る」
「その森ができるときには私はいません」
「君の名前をつける」
「...私はいません」
「僕がいる」
「私はロシアさんの毛の一部になるんですか?」
「なんかやだなあそれ。どうせなら細胞の一部って言って欲しいな」
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