シニスターの槍

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「なんだ。新聞屋じゃなかったの」  ピエロは化粧を落として、今ではすっかり普通の人間に戻っている。ただし、着ているのはまだ奇抜な衣装のままだけど。  劇は想像以上に面白かった。そして、目の前のこのピエロが一番それに貢献していた。 そのまま満足して帰っても良かったんだけれど。結局、僕はこうして彼の前にいる。 「あはは。良かった~。実はさっき思い出したんだけど、すっかり素寒貧だったんだよね」  彼は僕のことを新米の新聞配達人だと勘違いしていたらしい。たまたま今朝、取ってもいない新聞がまぎれこんでいたからだとか。 「あの……どうして僕のことを紋章官(ヘラルド)だと?」  ようやく誤解も解けた上でやっと訊けた。わざわざ律儀に立ち寄ったのはその理由を知りたかったのもある。 「だって、新聞のことを“ヘラルド”って言わない? ニューヨークの新聞紙にもそんな名前あるし」  ああ、なるほど。双方ともに見事に勘違いの応酬をしていたわけだ。
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