シニスターの槍

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「で、劇はどうだった?」  出し抜けにピエロはそう訊いてきた。初対面の時こそ真顔の仏頂面だったけども、本来とても愛想の良い人らしい。着替えながらもこちらを振り返ってはニコニコと人懐こい笑みを浮かべている。 「舞台からヘラルドが見えた時はびっくりしたな、お客さんだなんて思ってもみなかったから。でも、すごく笑ってくれてて嬉しかったよ」  ヘラルド? 僕のことか?  そういえば、まだ名前を訊いていなかった。 「ん? オレの名前? ジャック」  流すような軽い口ぶりが何だか嘘くさい。それにジャックなんて仮名の代表例じゃないか。  僕の心中を鋭く察知したのか、ジャックは舞台上で演じるみたいに両腕をサッと広げ、今度は朗々と声を張った。 「What's in a name?」
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