シニスターの槍

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「ウエストエンドにはよく来るの?」  再び会話を切り出したのはジャックだった。僕の買ってきたサンドイッチを無邪気に頬張っている。 「舞台、好きなんだね。一日に立て続けに二本も観るなんて」 「え? どうして立て続けにって……」  言い当てられてぎょっとすると、ジャックは不敵に笑いながら僕の鞄を指さした。そこには昼間観た舞台のパンフレットが顔を覗かせている。 それは一昨年に出版された小説を舞台化したもので、年明け早々に公演されたばかりの話題作だ。原作者は誰だったろう。結構有名な人だったことしか覚えてない。 「どう? 面白かった?」  ジャックは早速パンフレットを手に貪るように読んでいる。そこはやっぱり演劇人なだけあって、紙面を追う目付きは軽やかな口もとと反して真剣だった。 「ええ。でも……」 「でも?」 「世評で聞いていたのとは、感じが違うなと思いました」  ジャックがパンフレットから目を離し、食い入るように僕を見つめた。
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