シニスターの槍

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 その作品は一般の評価では悲劇として扱われていた。けれど僕には悲劇というよりも、作者の投げかけてくる痛烈な揶揄のように思えた。観客を、そして書いた作者自身をも透かして、こちらに見つめさせてくるような。 それを押してさらに感じられたのは、根底に流れる熱い想いだ。それがこの作品をただの悲劇や風刺に終わらせることなく、この上ない救いとして最後を結んでいるように思えたのだ。  僕が抱いた感想は世間的にはズレているのかもしれないが、ジャックの琴線には触れたらしい。 「へ……え、なるほど……。キミ、面白いね」  驚かれはしたが、意外にも彼は瞳を輝かせた。 「他人と違うセンスを持ってるってのは大きな強みだよ。作家になってみれば?」  せっかく褒めてもらえたものの、年賀状の文面にさえ何日も頭を悩ませる僕に果たして何が書けるというのか。 「じゃあ役者は? 一番臨場感ある舞台の上から芝居が観られるぜ。なんといってもチケット代はタダ!」  素顔のジャックがピエロの顔に見えてきた。完全に遊ばれてる。 「あはは、冗談冗談。でも、ヘラルドさえ良ければ毎日だって来ていいよ。その代わり、チケット代として新聞を持ってくるのが条件。これでどう?」  新聞を? まだからかわれてるのか?
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