シニスターの槍

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「この兜飾りっていうのは、紋章でいうところの(クレスト)で」  (クレスト)とは、シェイクスピアの紋章を例にすると、一番上に描かれている《はやぶさ》の部分だ。盾に描かれた紋章が個人を表すものならば、このクレストは同じ血筋の一族全体を表すパーツになる。日本の家紋と同じと言える。 「紋章を構成するパーツの一番上にくる(クレスト)を表現に活用したんだな。殺人行為を紋章に見立てて、残虐な手口を紋章の上に位置する(クレスト)に見立てたんだ。だから『殺人の極致』を『兜飾りの上の兜飾り』『絶頂』っていうふうにね」  紋章と聞くとどうしても装飾全体のことを思い浮かべがちだが、実際は盾の部分のみを指す。 「軽妙な言い回しにも使われてるよ。言うことを聞かない女に『ぶつぞ』と脅しをかけた男が、反対に『女をぶつ男なんてジェントルマンじゃない。ジェントルマンでなきゃ紋章だって持てないわよ』って言い返されるの。これは紋章を持てるのがジェントルマン以上の階級じゃないと許されないことを、上手く『紳士』の意味のジェントルマンにかけたんだな。じゃじゃ馬ならしの第二幕だ」  びっくりした。こんなに紋章について詳しい人に、僕はまだ出会ったことがなかった。
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