シニスターの槍

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 何も言えずに押し黙ったままいると、それまでの熱のこもった口調にまたジャックらしい人懐こさが戻ってきた。 「はは、ごめんごめん、そんなに引かないでよ。だって、役者としても作家の卵としても、作品に籠められた意図を理解するにはそのくらいの勉強はしないとさ」  『そのくらい』?  簡単に言ってのけるけれど、シェイクスピアの作品を学ぶ為に紋章学にまで手を伸ばすなんて、勤勉を通り越して変人の域なのでは。 「言うね、ヘラルド。でもなあ。役者なんてのは根なし草みたいなものだし、シェイクスピアの時代でもいかがわしい職業なんて言われてたくらいだし。そんな役者業さえ片足操業のオレは『変人の極致』、まさに兜飾りの上の兜飾り、絶頂──かもな」  上手い。思わず落語家のように膝をポンと叩く。 「キミだって相当なものだと思うよ? こんなシニスターの巣に毎日通って来てるんだから」  シニスターの巣?  同じような変人がいたら連れてきてよと、ジャックはカラカラと笑った。
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