シニスターの槍

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 劇場というのは、どうしてこんなにも独特な空気を纏っているものだろう。観客がいなくてもまだ熱気がそこかしこに残っているような。  息遣い、情熱。鼓動。喝采。 そういったものが長年消えることなく凝縮されて濃密に漂っている。役者と観客が一体となって夢を見る場所。  三階の奥まで足を進め、客席から舞台を眺めて振り返った僕の目の前に、衣裳部屋という字が飛び込んできた。  ここも見学していいのだろうか。  ノックをするとどうぞと声が返ってきた。誰もいないと思ってたのに、まさか返事が来るとは思わなかった。  もしかして、この建物の中では到るところで劇が繰り広げられているのじゃなかろうか? そんな妄想に憑りつかれるほど、ドアの先にある光景に目を見張った。
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