シニスターの槍

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 どうして“紋章官”だと? この人は何者だ?  まるで今の僕は酸欠の金魚だ。口をパクパクさせることしか出来ない。驚きに指をさした瞬間、ピエロは笑った。ようやくピエロらしく見えた。 「そんなに心配しなくてもちゃんと返すって。でも間違って配達したのはそっちなんだから、そう怒るなよ」  配達? 「それにしてもさぁ、こんな時間じゃあキミも持ち返ったところで今さらでしょ? それとも読んじゃったからにはお金払わなきゃだめ? しょうがないなあ。新手の押し売りみたいだなあ」  何やら勝手に話が進んでいる。  ピエロはポケットから財布を取り出す仕草をしたが、手はツルリと衣装の表面を滑っただけだ。 「あれっ? あ、そっか。あはは」  その時、はるか階下の舞台から「最終リハ始めるぞー」という号令が響いた。次いで「道化はどこだー」という声も。 「やべ、行かなきゃ。ごめん、代金は舞台の後でね」  これが僕とジャックとの出会いの序幕だった。幕開けは鮮烈すぎるほどだった。
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