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紋章世界の左右 シニスター・デキスター
正面から紋章を見た場合、左向きの図はデキスター、対して右向きの図はシニスターと言う。紋章の図はデキスターであるのが通常であり、シニスターの場合は図形を説明する記述に於いて、わざわざ『sinister』と明記される。つまり、それだけシニスターの紋章は珍しいということになる。
本来、これは左右とは別の意味を持つ言葉だった。デキスターは「幸運な・縁起の良い」というラテン語であり、シニスターは「不吉な・悪意のある・陰険な」という意味を持つ。
中世、剣を握って力を勝ち取る時代において、この右という概念は強固な意味を持っていた。利き手である右は力を表し、それはすなわち富の象徴となっていく。
英語の慣用句「That's right」は日本語では「その通り」「正しい」と訳される。right──すなわち「右」はただ方向を示すだけの言葉ではなく、「正統」や「権利」を担う語句へと発展していく。著作権を英語で「copyright」と呼ぶのは周知の通りだろう。
一方で左の「left」には「弱々しい」という意味しか充てられていない。ヨーロッパでの「左利き」を指す言葉にはいずれも「不真面目」や「インチキ」「欠陥」といった意味合いがあり、聖書にも左は一貫して悪いイメージで書かれている。
このように左右の歴史は言語に深く結びつき、またその価値観は紋章の世界にも受け継がれた。英国の国章が顕著な例となる。
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