朝顔の君

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 J学園中等部二年、安西典子は、その日人生初にして最悪の失態を犯した。  私立J学園は初等部、中等部、高等部、とエスカレーター式に上がる、名門校であった。初等部で幼き日を過ごし、伸び伸びと中等部を過ごし、やがて高等部に上がる。  わたしはしかし、中等部からの入学であった。  両親が離婚し、母親についていったわたしは、母の再婚相手、安西健に勧められるがまま、J学園に入学した。しかし、その生活は肩身の狭いものだった。周りは皆初等部から上がってきたお嬢様、お坊ちゃまばかり。わたしは彼らに馴染むのに相当の気を使った。  二年生になると、ようやくだんだんと打ち解けてきて、J学園の学風にも慣れた。高等部に入ったら、高等部専用の寮、通称ヤコブ館に入ろうと、わたしは夢見ていた。  義父とはうまくいっていない、ということはなかったが、やはり、年頃の娘は、それが分別の分かる年頃だっただけに、余計になかなか打ち解けられなかったのだ。  初等部の学園は郊外にあったが、中等部、高等部は建物さえ違うもの、同じ敷地内にあった。  それでも普通、中等部生と高等部生は交流を持たない。  部活動なども別々だったし、何より、高等部には敷地内に立派な夢の寮があり、中等部生はそれを夢見るがあまり、高等部生にも憧れを持っており、その盲目的な憧れが、彼らとある一定の壁を作っていた。  中等部生は、裏門から登下校をするのが常だったが、部活動で遅くなる時にだけ、中等部生も、高等部のグラウンドを通り、共同の正門から帰ることになっていた。  それが、中等部生と高等部生の唯一の接点と言ってよかった。
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