0人が本棚に入れています
本棚に追加
わたしは演劇部に入っていた。果たして、わたしも部活動の後は正門を使った。
さて、中等部の女子の制服はセーラー服であったが、その頃、生徒たちはネクタイをアレンジすることに凝っていた。細やかな自己主張の表れであった。少し色を浅くしたり、長さを短くしたり、それは様々だった。
わたしはそれらを真似るほど学園に馴染んではいなかったが、一年ぶりに夏服に袖を通した時、ネクタイが虫食って穴が空いていることに気づき、そこに朱色の朝顔の花の刺繍を施して誤魔化した。これがなかなかうまくできたもので、女生徒は羨ましがったもの、中等部入りのわたしの真似をすることはプライドが許さなかったのだろう、誰も真似をしなかったので、朝顔のネクタイは、わたしのアイデンティティとなった。
さて、わたしの失態とは、部活動の帰り、閉門間近、急いでいたところを、そのネクタイをどこかに落としてしまったことである。
さすがにネクタイ無しで明日登校するのは忍びなかった。わたしは演劇部員の仲間と、看守に縋って、ネクタイを探した。果たして、ネクタイはすぐに見つかった。落し物として届けられていたのだが名前は書いていなかった。しかし名前よりも、刺繍でそのネクタイの持ち主は一目瞭然であった。
本当にこれえ? と無駄に語尾を間延びさせる守衛さんの受け答えに、刺繍がありませんか、と尋ねると、果たして、そこにはあったのだ。
朱色の朝顔の刺繍。
わたしはそれを首に結び、緊張しながら、もはや高等部生の通りすらなくなった高等部のグラウンドを、小走りに駆け抜けた。
最初のコメントを投稿しよう!