朝顔の君

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「君は、本当に朝顔の君だね」  する、とタイが解かれた。彼はわたしの胸元を開き、そこにも唇を押し付けた。下着がちら、と覗く。彼の手は、スカートのプリーツをなぞるように降りて、その中に侵入しようとしてきた。太腿を撫でられて、体の芯が熱くなる。  まさか、こんなところで、犯されるのか? とわたしは震撼した。  そんな時だった。ドアの外が急に騒がしくなった。どんどん、とドアが鳴く。 「竜也、何してんのー?」 「巡回来てるよ!」  彼はさっと体を起こした。  竜也と、いうのか、彼は。  わたしはぼんやりとそんなことを考えていた。  シーツで体を覆い、乱れた制服を直す。彼は素早く身を整えて、ドアの鍵を開けた。  入ってきたのは、数人の男子学生と、女生徒が一人。皆、呆れた顔をして彼を見ていたが、女生徒がわたしに駆け寄り、制服の乱れを素早く整えてくれた。そしてシーツでわたしを覆い、中等部の制服を着ていることを隠した。  しかし巡回の寮母には、情事は露見しなかったもの、わたしが中等部生であることは看破されてしまい、その場にいた、おそらく彼のルームメイトなのだろう男子学生は連帯責任で絞られていた。  その目を盗んで、女生徒は裏口からわたしを逃がしてくれた。終始、大丈夫? 何もされなかった? と声をかけてくれたものの、あまりの仕打ちに打ちひしがれているわたしは、虚ろな頭で返事もろくに返せなかった。 「竜也は、ああ見えて硬派なんだよ」  軟派にしか見えないし、と心の中で毒づく。 「こんな問題起こすなんて、正直、わたしも驚いてる」  怒らないで聞いてね、と前置きして、彼女は言った。 「竜也のしたこと、許してあげてほしい。あいつね、馬鹿だけど、絶対好きでもない娘にそんなことできる奴じゃない。あなたのことが、あいつ、本当に好きなんだよ」 「どうして?」  初めてわたしが彼女の言葉に返事をすると、彼女は一瞬驚いて、それから笑った。 「わたしも、あなたのこと、知ってるんだよ。いつもいつも、竜也の、視線の先にいた娘」  彼女は……もしかしたら。  わたしはそんなことを考えて、でも一笑に付した。
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