朝顔の君

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 ヤコブ館のお茶会というのは、高等部寮ヤコブ館で行われる、中等部生が憧れてやまない一番のイベントだった。何をするでもない、ただお茶を飲むだけなのに、週末のこのお茶会には、誰かが誰かを誘わないと出席できないもので、誰もがその招待状を待っていた。  ひょんなことで招待されてしまったわたしはしかし、出席するつもりなどもちろんなかった。興味がない、と言ったら嘘になるけれど、あんな仕打ちはもうごめんだ。  幸い、今日は部活がない。  わたしは中等部の校門をくぐった。 「朝顔の君、まだ僕から逃げるの?」  振り向いた。そこには彼がいた。竜也とかいう、例の高等部生。いつものように、そこに座り込んでいた。  わたしはぐ、と拳を握りしめた。  ――怖い。 「返してください」  ネクタイのない胸を押さえて腕を伸ばした。きっぱりと、彼を拒絶する意思表示をしたつもりだった。 「お茶会に来てくれるなら、返してあげる」 「あなたは!」  さあ顔を上げて。言うんだ。立ち向かえ。 「あなたは、わたしに謝るべきだと思います。わたしがあなたに何をしたのか知らないけれど、あなたがしたことはひどいことだと思います」  緊張で張り裂けそうなわたしの心はばくばくとうるさかったのに、彼はけろっとして。 「うん、そうだね。ごめんね」 「は……」 「さあ、おいで。楽しいお茶会だよ」  わたしは誘われた。  その風流で不思議な人に、心まで引き寄せられそうで、それが嫌で。嫌で。 「帰ります! ネクタイなんか、また買えばいいんだもの」  ふう、と彼はため息を吐いて、背中を向けたわたしの肩をぽん、と叩いた。振り返ると彼の細い人差し指が、ぷすりとわたしの頬に刺さった。 「馬鹿にしないでください」  その手を払おうと振りかぶると、ふわりと首に何かが巻き付いた。
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