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1章 駅 ≪ 改訂.2017.2.4. ≫
1章 駅 (その1)
夜をとおして激しく降る雨が、形のあるものをことごとく打ち続けた。
明けがた、強い風が吹きあれて、黒い闇はひびわれて、
光の世界がたちまちひらけた。
山々の新緑(しんりょく)が、明るくゆれて、
風は野や谷や山の中を吹きわたった。
山梨県は山に囲(かこ)まれた地形の盆地のせいか、
上空はよく不意の変化をした。
雨上がりの朝だった。季節は梅雨(つゆ)に入っていた。
道沿(みちぞ)いの家の庭に咲く紫陽花(あじさい)は、
どこかショパンの幻想即興(そっきょう)曲を想(おも)わせ、
色とりどりに咲いている。
「韮崎(にらさき)は空気が新鮮だよね。空気がうまいよ。
つい、深呼吸したくなる。山とかに、緑が多いせいかね」
駅へ向かう線路沿いの道をゆっくりと歩きながら、
純(じゅん)は信也(しんや)に、そういった。
「きのうから純ちゃんは同じことをいっているね。
でもやっぱり、東京とは空気が違うよね。
それだけ、ここは田舎(いなか)ってことじゃないの。
人もクルマも全然(ぜんぜん)少ないんだし」
ふたりは声を出してわらった。
ふたりは今年の3月に東京の早瀬田(わせだ)大学を卒業した。
信也は平成2年1990年2月23日生まれの22歳、
純は平成元年1989年4月3日生まれの23歳で、
正確には1年近い歳(とし)の差があった。
小学校の入学の歳(とし)は、4月1日以前と2日以後に
区切られるため、信也はいわゆる早生(はやう)まれで、
小学校の入学から大学までふたりの学年は同じである。
信也は卒業後、この土地、韮崎市にある実家に帰って
クルマで10分ほどの距離にある会社に就職した。
ふたりは大学で4人組のロックバンドをやっていた。
ビートルズとかをコピーしていた。オリジナルの歌も作っていた。
まあまあ順調に楽しんいたのだけど、卒業と同時に仲間は
バラバラになって活動はできなくなってしまった。
新宿行(ゆ)き、特急スーパーあずさ6号の到着時刻の
9時1分までは、まだ30分以上あった。
「おれは、ぼちぼちと、バンドのメンバーを探(さが)すよ。
信(しん)も、またバンドやるんだろ」
「まあね、ほかに楽しみも見あたらないし。だけど、気の合う
仲間を見つけるのも大変そうだよね」
純は、同じ背丈(175センチ)くらいの信也の横顔を
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