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帰って来たばかりなんだぜ。それをまた、すぐにひっくり返す
なんてのは、朝令暮改(ちょうれいぼかい)っていうのかな、
なさけないないというか、男らしくないというか……」
「そんなことはないよ、信(しん)ちゃん。いまの時代は変化が
激(はげ)しいんだし、多様化の時代だし、1度決めたことだって、
変更してもそれが正しいことのほうが多いと思うよ。
いまの政治家とかのしている話だって、朝令暮改で
呆(あき)れるばかりじゃん。まあ、おれたち若者の場合は、
決心したことを変更する勇気のほうが、おれは男らしいと
思うけどね」
「またまた、純ちゃんは、人をのせるのがうまいんだから」
二人(ふたり)は、わらった。
「な、信(しん)ちゃん。おれに力を貸(か)すと思って、親父(おやじ)の
会社に入ることを考えてほしいんだ。一緒(いっしょ)に、
ライブハウスやバンドをやって、夢を追(お)っていこうよ。
おれは真剣なんだ。冗談(じょうだん)抜(ぬ)きで。
かわいい美樹(みき)ちゃんだって、それを願っていると思うよ。
信ちゃんは長男だから、家を継(つ)ぐと決めたことはわかるけど、
『信也さんの実力を試(ため)す、いい機会ですよ』って、
お父(とう)さんとお母(かあ)さんに、おれが説明したら、
昨夜も、ニコニコと笑顔で、わかってくれているみたいだった
じゃない。話のわかるご両親で、おれも、ほっとしたよ」
「純ちゃんは、説得の名人だからなあ。参(まい)ったよ」
韮崎駅に着いた二人は、改札口の頭上(ずじょう)にある
時刻表と時計を眺(なが)めた。
新宿行(ゆ)き、特急スーパーあずさ6号の到着時刻の
9時1分までは、あと5分ほどであった。
「まあ、信(しん)ちゃん、よく考えください。おれらには、
時間は十分あるんだし・・・」
「わかったよ。まあ、何事も簡単にはいかないよね。
おれもまたよく考えてみるよ」
そういって、純と信也は手を握(にぎ)りあった。
純は切符(きっぷ)を購入(こうにゅう)すると、改札口を
抜けて振(ふ)り返(かえ)る。笑顔(えがお)で、信也に
軽(かる)く手を振(ふ)った。信也も笑顔で手を振る。
そして、純はホームへ続く階段へと姿を消した。
≪つづく≫ --- 1章 おわり ---
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